Hくん昇進事件
私と同期入社の同僚にHくんという男がいる。
Hくんは人の形をしたウンコと呼ばれるほど人望が無く、同期内では酢豚の中のパイナップルのような扱いを受けていた。
今日はそんなHくんに起きた災難のお話を書くことにする。
余談だが、酢豚の中にパイナップルが入っているのは豚肉が柔らかくなるからだそうだ(カブトボーグで知った)。
ゴールデンウィーク前、私が部署の先輩たちと飲み会を楽しんでいたときのことである。
飲み会中、先輩であるAさんからHくんが昇進したという話が出た。
私と同じ入社年度での昇進となると、異例の出世スピードである。
Hくんの昇進に場は大いに盛り上がった。
しかし、祝福や称賛の声はなく、「あいつは上司にゴマするのだけは上手だからな」「あいつはペコペコバッタだ」など、怨嗟の声だけが噴出した。
「あいつ先輩からもこんなに嫌われてんのかよ」とちょっと可哀そうになった。
私は先輩たちの負の感情の奔流に少し怯えてしまい、「いや、あいつもけっこう成果出してるんすよ」とフォローしてしまったが、「どうせ人から横取りした成果だろ!」と驚くほど聞く耳を持ってもらえなかった。
だが、よく考えたらHくんに借りを作るのが嫌で借りを作るたびに金銭で清算していたことを思い出し、庇い立てする義理は存在しないことに気づいたため、私も「そうそう!きっと横取りですよ!ぼく横取りしてるところ見たことありますもん!」と話を合わせて盛り上がることにした(横取りしてるところを実際に見たことはない)。
飲み会が解散になったあと、社員寮に帰ると後輩のTくんがいた。
私やHくんは〇〇部門所属だが、Tくんは別の部門に所属している。
Tくんは進路に悩んでいるらしく、少しばかり相談に乗った。
その相談の流れの中でHくんが昇進したという話をしたのだが、Tくんの反応は脳に電流を流されたカエルのように鋭敏だった。
「え!?Hさん昇進したんですか!?」「どうやって!?」「〇〇部の人事は何考えてるんですか!?」など、マシンガンのように会社への不信を口にしていた。
Hくんが昇進することが会社への不信に繋がるとは、Hくんも罪な男である。
よくよく考えると、この言動からTくんが先輩であるHくんを完全にナメくさっていることが透けて見えるが、興奮するTくんに気圧されててこの時は気づかなかった。
ゴールデンウィークが明け、私はHくんに久しぶりに再開した。
Hくんがいかに畜生社員であっても同期として昇進を祝ってやるくらいのことはしようと思い、「昇進おめでとう」と声をかけたのだが、Hくんの反応は想定していないものだった。
「え?なんのこと?俺っていつの間にか昇進してたの?」
どうやらHくんの昇進はデマだったようである。
話の出所を探っていくと、私やHくんの同期であるYくんがジョークとしてついた嘘を周囲が真に受けて話が広がっていったというのが真実だった。
Yくんが悪意なくついた嘘が回り回って人事の不透明性の話にまで発展するというのは恐ろしいことである。
Hくんが老若男女分け隔てなく人望がないせいで起こった珍事ではあるが、この事件に関わった人間は「Hくんの昇進を妬み悪口を言いまくった器の小さい奴」として軒並み株を下げる結果になったように思う。
「人を呪わば穴二つ」をこの事件の教訓として、人の悪口は自分の株も下げるということを肝に銘じて生きていかないといけないと思った。
※補記
記事のわかりやすさを優先して割愛したが、Hくんの悪口を一番触れ回っていたのは私である。
Hくん、すまん。