ビブリオバトラー谷口
昔通っていた本屋さんに谷口というまんが道の満賀みたいな見た目の店員さんがいました(名前は名札に書いてました)。
満賀
谷口は変な方向に仕事熱心で、漫画を谷口のレジに持っていくと書評を言ってくれるという、豊富な漫画知識とふんだんな狂気がないとできないサービスを行っていました。
初めて谷口に話しかけられたのは私が「でろでろ 新装版 3巻」を購入したときです。
谷口は「あぁ~~!(高音)でろでろいいですよねぇ!お客さん、いつもセンスある漫画買ってますよね!この前買ってた位置原光の新刊とかどうでした!?」と予備動作ゼロでテンションマックスまで上げてきてビブリオバトルをしかけてきました。
店員と客という垣根を越えていきなり野良試合を仕掛けてくるとは、谷口は相当なバトルジャンキーであることが推察されます。
日常からバトルへの移行がシームレスすぎて、自由度の高いMMORPGかと思いました。
一方私はと言えば、虚を突かれたコミュ障の脆弱さを露呈しており、「エッ、アッ、ハイ、オモシロカッタデス」とカタコト外国人みたいな返事をすることしかできませんでした。
本来なら私も「でろでろ」の新装版発売や位置原先生の新刊については語りたいことがいろいろあったのですが…
その後も谷口は私が漫画を買うたびにビブリオバトルを仕掛けてきました。
私は同じ技が二度通じないタイプの聖闘士なので、二回目以降は漫画の感想を話すこともできたのですが、谷口はやはり只者ではありません。
私の想像をもう一段越えてきました。
私の後ろに人が並んでいてもお構いなしでバトルを仕掛けてくるのです。
就労意識<闘争本能!
私は自分のことをいっぱしのマンガ読みだと思っていますが、谷口みたいに解雇されるリスクを負ってまで感想を語ることはできない…
私の完敗です。
ただ、谷口はしばらく後に本屋から姿を消しました。
まさか本当にクビになるとは。
今、谷口は何をしているのでしょうか。
私にはわかりません。
ですが、私は谷口のことを思い出すたびに、「谷口ほどのマンガ戦士ならば、今もどこかで漫画を読んでいるだろうさ」と主人公が行方不明になるタイプの最終回みたいなことを思うのです。